高橋安人文庫

高橋安人文庫について

故高橋安人氏の蔵書を、図書館などの公的機関で受け入れていただけるまで、田中克範の責任において保管しています。研究目的で閲覧をご希望の方はご連絡ください。(2020年2月12日、かつて使っていたウェブサイトからこのエントリの記述を転載)

これは、豊橋技術科学大学の高橋研究室に遺されていた蔵書類を、豊橋技術科学大学教授であった臼井支朗氏を通じて2005年にあずかり受けたものです。

高橋安人について 

高橋安人(1912-1996)は、戦後の日本において早くから自動制御の研究と教育に取り組み、多くの著作を残した。

1947年に自動制御懇話会(後の自動制御研究会、現在の計測自動制御学会)において中心的な役割を果たし、日本の自動制御研究に大きな影響を与えた。

参考

文庫の内容 

目録は以下のとおり。

書籍 

自著(翻訳、共著含む)がほとんどである。書き込み等あり。

  • 自動制御計算法, 東明社. — 訳編者から英文の手紙1通 (1葉) はさみこみ.
  • Control, Addison-Wesley.
  • 自動制御の力学, 改訂版, 誠文堂新光社.
  • システムと制御, 岩波書店. — 書き込みあり.
  • システムと制御, 第2版上, 岩波書店. — 手書き正誤表1枚はさみこみ.
  • システムと制御, 第2版下, 岩波書店. — 手書き正誤表1枚貼付, 上巻の手書き正誤表1枚はさみこみ.
  • 自動制御計算法, 改訂版, 共立出版. — 22ページにしおり, 同ページのコピーに赤インクで訂正を入れたものはさみこみ.
  • Automatic and Manual Control, (Tustin, ed.). — とびらに Herman Thal-Larsen 7 August 1952 と鉛筆による署名があるほか, 各所に書き込みあり. クランフィールドで代読された高橋安人の論文が収録されているが, これに訂正あり.
  • 連続自動制御論, (Oppelt), 科学技術社. — 出版社による印刷された正誤表はさみこみ.
  • 連続自動制御論, (Oppelt), 科学技術社. — 出版社による印刷された正誤表と読者葉書はさみこみ.
  • 自動制御, 科学技術社. — 出版社による印刷された演習問題解法頒布の案内はさみこみ.
  • コンピュータによるダイナミックシステム論, 科学技術社.
  • ニューラルネットワークによる非線形系及び非定常系の最適予測適応制御. — 2冊.
  • 自動制御理論, 岩波書店.
  • ディジタル制御, 岩波書店. — 赤インクによる訂正あり.
  • 動く理論シリーズ: 自動制御論, オーム社. — どちらかといえば私的な手紙1通 (2葉), および数式訂正の書き込みがある12ページのコピー (著者宛てに手渡しと思われる) はさみこみ. 4枚組のフロッピーディスクのほか, 刊行後に作成されたと思われる 6/20/90 という日付入り4枚組も添付.
  • パーソナルコンピュータによる自動制御計算法, オーム社.
  • The Fractal Geometry of Nature, (Mandelbrot).

ノート 

1988年頃からのもの全17冊、プログラムのリストなど貼付多数。

  • シリアル番号付き 1~15 (欠番なし).
  • 表紙に「けおす」と書かれたもの 1冊.
  • 表紙に「PC 87」と書かれたもの 1冊. — フラクタル画像のカラー写真 (ネガフィルム付き) はさみこみ

その他 

関係者に配布された冊子。

  • 高橋安人先生への感謝の会編, 冊子.
  • 高橋安人先生を囲む会編, 冊子.

森亮資さんのこと

森さんの印象

私は森亮資さんとは一度しかお会いしていないが、その印象は強かった。

森亮資さんと会ったのは、日本科学史学会技術史分科会研究会で、私がライカM Typ262を机の上に置いていたら声をかけていただきました。ちょうどそのライカが不調で電源が入らなくなっていると言うと、森さん「ちょっといいですか?」と言って電池を外し、また装着し、「どうでしょうか」と、スイッチを入れたら見事に電源が入りました。その後の懇親会でカメラの話をしたことを覚えています。科学史学会でライカのユーザーは珍しく、親しみを感じました。

それからあまりたたないうちに聞いた訃報。まったく予期しないことに驚きました。

私自身いつまで生きられるかわからず、森さんの遺志を継ぐなんてとても無理ですが、やりたい技術史研究上の課題は少しあります。さしあたり、F値、EVの業界標準化の過程とか。いつ論文にできるかわからないけれども。オスカー・バルナックのきちんとした伝記を読みたいが、まず英語かドイツ語の文献探しからかな。

Facebook 2019年11月22日 私の投稿より

森さんの論文を読む

森さんが遺した雑誌掲載論文は、おそらく日本産業技術史学会の「技術と文明」に掲載された次の5篇ではないかと思われる。森さんの研究対象はもっと広がりがあるようなのだが、論文としてまとまったものは、「現代的カメラ」と定義された35ミリ判のカメラの歴史を扱ったものである。私がカメラの技術史研究に着手するにあたっての、最初の基礎的文献となるであろう。

森亮資, ワイマール・ドイツにおける「現代的カメラ」の開発, 技術と文明, 17巻1号, 2012-05-30.
森亮資, 第二次大戦前日本における35ミリ精密カメラの開発, 技術と文明, 17巻2号, 2012-08-30.
森亮資, 1930年代ドイツにおける「現代的カメラ」成立への一階梯―適正露光実現への技術開発を中心に―, 技術と文明, 18巻1号, 2013-12.
森亮資, 1930~40年代における日本の35ミリ精密カメラ開発, 技術と文明, 18巻2号, 2014-03.
森亮資, 1920~30年代における写真カメラ用シャッターの工学的技術史研究, 技術と文明, 20巻2号, 2016-09.

森さんの「現代的カメラ」

森さんは、上にあげたうちもっとも古い論文の冒頭で、

「現代的カメラ」を1932年の “Contax” において最初の実現をみたとする。

ワイマール・ドイツにおける「現代的カメラ」の開発, 技術と文明, 17巻1号.

と述べている。Osker Barnack が開発した Leica ではないのである。森さんは、①カメラ製造の手工業からの脱却、すなわち現代化を実現したこと、②距離計との連動という二点の理由を示している。そして森さんは、「暗箱」的カメラから、現代的カメラへの変化の過程をあきらかにするのである。

私のカメラ技術史研究へ

私のカメラ技術史研究は、森さんの研究を礎にすることになるだろう。ただ、森さんの継承者になろうというつもりはない。正直なところなにができるかわからないけれど、私なりの方法で道を探っていくばかりである。森さんの一周忌あたりまでに自分の研究の方向性や計画を明らかにしたいと思う。